脈打ちながら揺れる、オレンジ色の街灯を見つめていた。






15:00 記録的な豪雨の中、半ば強引にレンタカーを手配し早朝出発したものの、一向に動く気配の無い渋滞に痺れを切らした彼は、思い切ってナビにも表示されない峠道を選んだ。


 車内にはスピッツが流れているはずだが、雨と氾濫する河川の音とで、さながらルー・リードのかの前衛アルバムと化している。これはこれで悪くは無い。この景色から少しでも気を逸らせるのなら、助手席の背もたれに穴を開けるビーバーと同乗している方がこの際ありがたいとさえ思える。

23:33 バックミラーに違和感を覚える。車だ。地元の人間だろうか。ぴたりと付けて来る。田舎といえばのんびりとしたイメージで語られがちだが、こと車の運転に関しては全くの幻想と言ってもいい。里の道を熟知した彼らにとって、余所者の運転など亀以下の存在なのだ。
ただでさえ落ち着かないというのに、煽られてはたまらない。彼は路肩に避け、「兎」が抜き去っていくのを待つことにした。

 さてと、生憎このような災害時、むしろ堂々と車中泊できるというものではないか。何も今夜中に峠を越える必要は無い。明朝までここで休んだとしても何ら問題は無いのだ。などと考える。23:36 コロンの点滅を数える。

 ん?おかしい。エアコンの設定が過剰なのだろうか。いや、確かに温度が低下していくのを感じる。

バックミラーの違和感が消えない。


 コン コン コン



 彼の心臓はこの二十七年間休まず動いてきた。つまり、AEDの感触など想像することはまず無かった。例え緊急延命措置の講習を受けていても、である。


 コン コン コン



 首という部位は不思議なもので、過度の緊張下においては関節同士が結合するようである。    無論彼が医学を少しでも学んでいたなら、この様な奇論を展開することはまず無かっただろうが    時にはそれが吉と出る場合もあるのではなかろ

 「あのー・・・」

 「キャアッ!!